漬け物とは
漬け物は、その名の通り「漬けた物」。主に野菜などの食物を、塩や調味料で漬けた物のことをいいます。
肉や魚を漬けた物も広義としては「漬け物」に入りますが、一般的には、野菜などを漬けたものが「漬け物」として認知されています。(農林水産省の規定では、日本での「農産物漬物」とは主に野菜、果物、キノコなどを原料にしたものを指しています。)
昔は冷蔵庫などの便利なものはなく、食品の保存は生きていくうえで大変重要でした。春夏に収穫した食品を冬まで持たせなくてはならない・・・そこで生まれたのが、塩で漬けこんだり発酵させることによって長期間にわたり保存することが可能な「漬け物」なのです。
漬け物は食塩を使うことによって容易に製造できることから、食品加工の歴史の中で、もっとも古い加工・保存方法の一つに挙げられます。
食塩をまぶしたり食塩水につけ込むことによって、野菜がしんなりとしアクが取れ食べやすくなり、漬物独特の風味が作られます。
漬け物は、長く保存するための「保存食としてのもの」、野菜を美味しく食べやすくするための「調理的なもの」としての機能を併せ持った、優れものなのです。
そして日本は、各地域に多種多様なお漬物が溢れる世界にも類を見ない漬物大国なのです。
昔の漬け物と現代の漬け物
日本が世界の中でも類を見ない『漬け物大国』となった理由は、四季があり南北に長い豊かな土地からさまざまな野菜が取れるということや、湿度が高く漬け物を作る際に必要な発酵作用がうまくできるなど様々な理由があります。
昔は漬け物と言えば貯蔵が主な目的でしたが、すべてが保存を目的としているわけではなく、徐々に食べやすくしたり味を楽しむために調味されたものが多くなっていきます。
現在、漬け物は年間を通して作られるようになり、本来の保存性よりも風味や野菜の持っている健康機能を重視したものが求められるようになってきています。
漬物は大きく分けて「発酵しているもの」と「発酵していないもの」の2種類があります。
昔ながらの「発酵しているお漬物」・・・塩漬けやすぐき漬け、そしてぬか漬けは発酵食品として乳酸菌や食物繊維・ビタミンなどの栄養が多く含まれています。
発酵の過程を経ていないお漬物・・・「浅漬け」などもその歴史は古く、新鮮な野菜の風味や無発酵のため美しい色合いを残しているものも多くお土産物として喜ばれ、広く浸透し人気を博しています。
昔は各家庭でお漬物を作ることが当たり前でしたが、現代では安価でたくさんの種類の漬物がスーパーで手軽に買えるようになり、自分で漬けるよりも買う方が多い、といったことも現代の漬物事情の一つとして挙げられます。
樽や漬物石を用い何カ月も塩で漬け込む昔ながらの発酵漬け物を作っている方や、家庭独自のぬか床を祖母から受け継ぎ日々ぬか漬けを食べているという方。
調味液に浸し10分から1時間ほどで出来上がる即席漬けや、市販品の食べ比べ・料理などに使って楽しんでいる方も多く、日本の伝統的食品である「お漬物」も他の食品同様、時代とともに変化しています。
日本の伝統的食品「お漬物」の始まり
日本の伝統的食品「お漬物」の始まりは?どうやってできたのか?
漬け物の歴史を時代別に分けて、紹介していきます。
漬物の歴史
「世界一の漬物大国」とも称されている日本のお漬物は、日本独特の南北に細長い土地と四季、湿度が合わさり、実に様々な種類が各地に存在しています。
いつ頃から漬け物を作るようになったか?ということはハッキリわかっていません。
ですが日本は海に囲まれていることもあり、古くから塩水を使って食品を塩漬けする工夫がなされていました。今から2000年も昔の大和時代に、すでに塩に食品をつけて保存するといった塩漬けの技法が行なわれていた事はわかっています。
日本の記録に「漬物」として初めて現れるのは、奈良時代になってからです。8世紀頃のものとされる木札に、うりやナスなどの野菜の塩漬けのことが墨文字で記載されているのが最初だといわれています。
奈良時代・平安時代
漬物が日本で初めて記録に現れたのは奈良時代です。この頃の木簡に、瓜や青菜の塩漬けが記録されています。
この時代、大陸の文化が伝わって酒や味噌・醤油などの調味料が作られるようになったことから、他にも酒粕・もろみなどにさまざまな調味料に野菜を漬けて保存する方法が登場していきます。
ただし奈良時代後半頃までは、漬物は僧侶や貴族といった一部の人たちのための物で、庶民はあまり食べられない高級な食べ物でした。(この時代は塩が米の2~3倍もの価格の高価な物だったのです)
平安時代に入ってから、やっと庶民の間でお漬物が広まっていくようになります。
10世紀半ば・平安時代に編纂された『延喜式(えんぎしき)』といった書物に、春の漬物14種類、秋の漬物35種類が記されています。食材も瓜などの野菜から果物、野草、山菜と、バリエーション豊かに楽しんでいる様子がうかがえます。
鎌倉時代から室町時代
鎌倉から室町時代 、漬物は発展していきます。茶の湯や聞香(もんこう)の流行に伴い、「香の物」として漬け物が盛んに食べられるようになったのです。
漬け物が味覚や嗅覚を一新する効果があったので、「茶の湯」でのお口直しや「聞香(もんこう)」での鼻の疲れをいやすといったことのために用いられたためです。
このような使われ方をしたため、お漬物は「香の物」「お香香(おこうこ)」と呼ばれるようになりました。(諸説あり)
※聞香(もんこう)とは、小さな香木を温め、香炉を手で覆って指の間から深く息を吸い込みながら香を「聞く」ことです。(香は「嗅ぐ」ではなく「聞く」もの)。当時公家・武家・裕福な民衆の間で流行していた遊びの一種で、香木の香りを聞き分ける【闘香(とうこう)】という遊びがもととなっています。
江戸時代
そして江戸時代に入り、全国から多くの商人が集まるようになり野菜の種類も多くなり、漬け物の調味や作り方に工夫がみられるようになりました。
漬け方も単に「野菜の貯蔵・保存」を目的とするところから抜け、当座漬け・一夜漬けといった「味を楽しむ」といった漬け方がこの頃から盛んにみられるようになります。
また一般庶民での漬け物事情として、「糠漬け」が出現したことにより広がりを見せることとなります。米ぬかと塩をあわせた漬け床は長く使い続けることができ経済的であることから、広く普及して行ったのです。大根を天日干しにしてぬかと塩でつける「たくあん漬け」もこの時期にできました。
江戸時代には様々な漬物専門書が刊行され、レシピも編み出され、漬物文化は花開いていったのです。
明治・大正・昭和時代
文明開化以降、日本人の食卓は一気に西洋化していきますが、依然として漬物は食卓を飾る副菜としての座を維持していました。
明治時代になると、都市近郊の農家ではたくあん漬けや奈良漬けが大切な副業になっていきます。これらの副業が大正、昭和にかけて漬け物製造業へと発展していきます。
また戦後、家庭での漬物の在り方も様変わりしていきます。
戦争が終わり、家庭環境や食生活・ライフスタイルの変化によって、親が子供に漬物の漬け方を教えることがなくなり、各家庭で作られていた自家製漬物は姿を消し、気軽に買える市販品が流通していきます。
1960年(昭和35年)ごろよりはじまった減塩運動は、漬物にも大きく影響を及ぼしました。お漬物は塩分の高さから高血圧の源などといった風潮もあり、「減塩漬物」なるものも多くみられるようになりました。
平成~現代のお漬物
昭和から平成に入り食生活の多様化はますます進み、パンやパスタ、麺類を好む方が増えてきています。お米の消費量が落ちるとともに、漬物の需要、漬物市場は年々縮小しているとされています。
しかし2013年(平成26年)、和食がユネスコ無形文化遺産「世界遺産」に登録されました。和食の基本形「一汁三菜・・・飯・汁・3つの副菜(漬物・煮物・焼き物)」という日本人の食文化が世界に認められ、漬物にも注目が集まっています。
また近年では、漬け物に含まれている植物性乳酸菌が健康にいいことが再認識され、お漬物の評価も見直されています。
「誰でも簡単にできるぬか漬けセット」など、料理初心者でも気軽に作ることができる材料やぬか床が全部揃ったセットなども販売されて人気を博しています。
(※参考文献:「新・食品事典8 漬け物」 河野友美編)
(※参考文献:「絶品 漬物ブック」 宮尾茂雄監修)
(※参考文献:小泉武夫著「漬け物大全」、小川敏男著「漬物と日本人」)
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